Cloudflare OneとAI Gatewayによによるマーケティング部門のAI活用

生成AIを禁止せずに安全に使い倒す: シャドーAIの可視化とAPIコスト制御の実践

この記事の目次
  1. 「社員のブラウザー利用」と「自社サービスのAPI利用」を切り分ける
  2. シャドーAIの利用実態の可視化から始めるアプローチ
  3. 「AI Prompt Protection」で機密情報の送信を防ぐ
  4. 自社システムにAIを組み込む際の「API運用のカオス」
  5. AI Gatewayによる「横断可視化」と「コストの事前制御」
  6. DOMOの視点
  7. まとめ
  8. 覚えておきたい用語

企画のアイデア出し、記事の下書きや要約、市場調査、広告クリエイティブの制作、データ分析など、生成AIは、マーケティングやWeb運用の現場において、すでに欠かせない日常の仕事道具となっています。

AIをうまく使いこなせば、これまで数時間かかっていた作業が数分で終わり、業務のスピードは劇的に加速します。そのため、現場の担当者が個人アカウントや無料ツールを使って自主的に活用を始めているケースも少なくありません。

しかし、経営層やセキュリティ担当者の視点に立つと、そこには見過ごせないリスクが潜んでいます。社員がどのAIサービスに、どんなデータを入力しているのか把握するのが難しいからです。顧客リストや未公開の新商品情報が、AI経由で外部へ流出していないか、といった危険にさらされるかもしれません。また、コスト的な負荷も大きくなります。

会社が正式に承認、管理していないAI利用は「シャドーAI(Shadow AI)」と呼ばれ、企業のガバナンスを揺るがす新たな脅威として急速に警戒が高まっています。とはいえ、リスクを恐れるあまり「生成AIの一律禁止」を打ち出せば、現場の生産性や競争力を自ら削ぎ落とすことになってしまうでしょう。

これからの企業に必要なのは、AIを禁止することでも、無防備に放任することでもありません。「誰が、どのAIを、どう使い、いくらかかっているか」を可視化し、安全に活用を広げるための施策を打つことです。

この節では、マーケティング現場の熱量を損なわずに企業を守る「AIガバナンス」の考え方と、それを支えるCloudflare OneおよびAI Gatewayの実務的な活用法について解説します。

「社員のブラウザー利用」と「自社サービスのAPI利用」を切り分ける

CloudflareのAI関連機能を理解する上で、重要な出発点は、管理すべきAI利用が、以下に示すように、まったく性質の異なる2つの領域に分かれていることを認識することです。

  • 社員の日常業務での生成AI利用(社内利用のガバナンス)
    • 社員がPCやスマホのブラウザからChatGPTやClaude、GeminiなどのWeb画面へアクセスし、文章作成やリサーチを行う利用形態
      • 対策: 「Cloudflare One(Gateway / CASB / DLP)」による通信の可視化と制御
  • 自社サービスに組み込む生成AI利用(開発コストのガバナンス)
    • 自社のWebサイトに設置したチャットボットや社内ツールが、裏側でOpenAIやAnthropicなどのAPIを直接呼び出す利用形態
      • 対策: 「Cloudflare AI Gateway」によるリクエストやコスト、安定性の一元管理

Cloudflareは、社内のAI利用を安全にするため、主に2つの機能を用意しています。社員のWeb利用を見守る「社内向けの窓口(Cloudflare One)」と、自社システムが外部AIを呼び出す「システム向けの窓口(AI Gateway)」です。この2つの役割を適切に切り分けて設計することが、無理のないAIガバナンスの第一歩となります。

名前だけから判断して、「AI Gatewayを導入すれば、社内のChatGPT利用がすべて監視できる」などと誤解されがちな面もあるかもしれません。実際には、Web経由のAI利用に対するCloudflare Oneと、API経由のAI利用に対するAI Gatewayでは、守る場所も役割も異なります。それを正しく認識することが必要です。

シャドーAIの利用実態の可視化から始めるアプローチ

社内でシャドーAIが広がる背景には、利用している社員の「悪意」があるわけではありません。「少しでも早く質の高い資料を作りたい」、「便利な最新ツールを試してみたい」という、極めて前向きな業務改善の動機から始まることがほとんどでしょう。

だからこそ、単に「会社のルールでAIは禁止」と厳罰化しても問題は解決しません。会社が安全で便利な環境を提供していなければ、社員は個人アカウントや私用スマホを使って隠れて業務を行い、かえって会社から見えない水面下へリスクが潜ってしまうことになりかねません。

そのため、ガバナンスの第一歩は、厳格な禁止令を出すことではなく、現状の利用実態をありのままに知る(可視化する)ことから始まります。

Cloudflare Oneでは、社内ネットワークやテレワーク端末の通信を「Cloudflare Gateway」経由にすることで、社内でどんなSaaSやAIサービスがアクセスされているかをダッシュボード上で可視化できます。

Application Library(利用サービス一覧)を活用すれば、ChatGPT、Claude、Perplexity、画像生成AIなど、どのAIが、どの部署で、どれくらいの頻度で使われているかまでも、一覧で把握できます。

AIを使っている人間を取り締まるのではなく、現場がどのAIを本当に必要としているのかを正確に把握することで、会社として正式に法人契約すべきツールや、利用を許可するガイドラインを前向きに策定できるようになるでしょう。

出典: Cloudflare Docs: AI security

「AI Prompt Protection」で機密情報の送信を防ぐ

マーケティング部門が扱うデータの中には、顧客の個人情報、購買履歴、広告配信データ、未発表の新商品スペック、キャンペーン計画、プレスリリースの草案など、社外に絶対に漏れてはならない重要資産が溢れています。

社員が「このアンケート結果をAIで分析してほしい」、「このプレスリリースを校正してほしい」と、それらの機密データを生成AIの入力欄(プロンプト)へそのまま貼り付けてしまう行為は、情報漏洩や規約違反に直結する重大なリスクです。

Cloudflare Oneの「DLP(Data Loss Prevention: データ漏洩防止)」および「AI Prompt Protection」を活用すれば、こうした事故を未然に、技術的に防止できます。

  • 機密データの自動検知: 通信データ内から、クレジットカード番号、氏名、電話番号、メールアドレスなどの個人情報、APIキーや認証情報、ソースコードなどを自動判別
  • AIプロンプトのリアルタイム検査: 主要な生成AI(ChatGPT、Claude、Gemini、Perplexity等)へ送信されるプロンプトの内容を送信直前に解析し、機密情報が含まれていた場合に警告表示や送信ブロックを実行
  • 自社独自の機密キーワード定義: 自然言語を用いて「未公開の製品コードネーム」や「特定の顧客リスト」など、自社独自の機密テーマを指定して検出対象に設定可能

「AIの利用を一律禁止する」のではなく、「業務利用は歓迎するが、この機密データだけは外部へ送らせない」というきめ細やかなルールをシステム側で自動適用できるため、現場の利便性を損なわずに情報漏洩を強固に防ぐことができます。

出典: Cloudflare Docs: Data loss prevention

出典: Cloudflare Docs: AI Prompt Protection

自社システムにAIを組み込む際の「API運用のカオス」

企業がAI活用を一歩進めると、社員がブラウザーでChatGPTを使うだけでなく、自社のWebサイトや業務システムそのものにAIを組み込む開発が始まります。たとえば、以下のようなものが考えられるでしょう。

  • 自社ECサイトにAI接客チャットボットを設置する
  • 大量の商品情報からおすすめを提案するAI検索を構築する
  • カスタマーサポートの問い合わせメールをAIで自動分類し、返信の下書きを自動作成する

こうした高度な仕組みを作る場合、エンジニアはOpenAI、Anthropic(Claude)、Google(Gemini)など、外部AIのAPIをプログラムから直接呼び出して利用します。

しかし、施策やシステムごとに別々の開発チームがAI APIを導入し始めると、今度は以下のような「API運用のカオス」に直面することになります。

  • 各AIサービスの管理画面が分散することによる、利用量やログ把握の煩雑化
  • どのWebサイトのどの機能がトークンを消費しているかという、横断把握の困難さ
  • 外部AIサービスの一時的な障害に巻き込まれる、自社チャットボットの共倒れ停止
  • 月末にクレジットカードの請求書が届くまで総額が分からない、API利用料金のブラックボックス化

このような、システム側でのAI活用の「ブラックボックス化」を一気に解決する管理レイヤーが、「Cloudflare AI Gateway」なのです。

AI Gatewayによる「横断可視化」と「コストの事前制御」

AI Gatewayの仕組みは極めてシンプルです。自社のアプリケーションと外部のAIモデル(OpenAI、Claude、Gemini等)の通信の間に、Cloudflareをプロキシ(中継役)として挟み込みます。

既存のAPI接続URLの先頭部分をCloudflare経由になるよう、わずかに書き換えるだけで、コードを大幅に書き直すことなく、単一のダッシュボード上で以下の高度なガバナンスと制御機能が利用できるようになります。

  • 複数AIプロバイダーの横断ダッシュボード
    • 利用している各社のAIサービスのリクエスト数、トークン消費量、エラー発生率、応答速度、推定コストをひとつの画面でリアルタイムに一元可視化
    • どの施策やアプリが最もコストを消費しているかの明確化
  • レスポンスキャッシュによるコスト削減と超高速化
    • 「同じ質問に対して同じ回答を返す」場合、過去の応答結果をエッジサーバーに自動キャッシュ
    • API利用料の節約と同時に、ユーザーに対するミリ秒単位の超高速レスポンスを実現
  • 予算上限設定(Spend Limits)とレート制限(Rate Limiting)
    • 「1ヶ月あたり〇〇円まで」、「1分間に〇〇回まで」といった上限ルールを、モデル別、プロバイダー別、アプリ別に細かく設定
    • 設定した予算に達した瞬間にアクセスを制限したり、通知することで、予期せぬアクセス集中やループ処理による、月末の莫大な請求発生リスクを未然に排除
  • 自動フォールバックによる事業継続性(BCP)の確保
    • 万が一、OpenAIのサーバーが混雑や障害でダウンした場合でも、あらかじめ設定しておいた代替モデル(AnthropicのClaudeやGoogle Gemini、あるいはCloudflare Workers AI)へ自動的にリクエストを迂回、切り替え
    • 外部サービスの障害によって自社のWebサイトや業務が止まるリスクを最小限に抑制

出典: Cloudflare Docs: AI Gateway overview

出典: Cloudflare Docs: AI Gateway features

DOMOの視点

AIを止めるのではなく、適切な利用を促進する

DOMOとして企業のAI活用やセキュリティについて検討する際、いきなり「セキュリティ規程を厳しくしてAI利用を制限しましょう」という方向に進むことはありません。むしろ、AIを安心して使いこなせるよう、防御策を講じたうえで、適切な利用を促進できる方向に目を向けます。

「危ないから使うな」と頭ごなしに禁止しても、現場はこっそり私用スマホや個人アカウントで使い始め、かえって危険なシャドーAIを深刻化させるだけです。他社とのスピード勝負にも大きく出遅れてしまいます。

Cloudflareは、以下のような主に2種類のAIガバナンス機能を用意しています。

  • Cloudflare One: 社内利用の入口を守る
    • Gatewayで利用状況をオープンにし、DLPとAI Prompt Protectionで「機密データだけは外部AIへ出さない」境界線を自動設定
  • AI Gateway: システム開発の入口を守る
    • 複数APIのログとコストを一元化し、キャッシュで費用を抑え、Spend Limitsとフォールバックで予期せぬ予算オーバーやサービス停止を防止

これら2つの機能を活用することで、マーケティング部門や開発チームは、リスクに怯えることなく、最新の生成AIをビジネスの武器として最大限に使い倒すことができるようになります。

禁止から管理へ、管理から積極活用へ、現場の挑戦と企業の安全を両立させることこそが、DOMOが提唱するAI時代のインフラ設計思想です。

まとめ

AIガバナンスは、生成AIの利用を禁止、制限するための仕組みではなく、企業が安心して活用を広げるための安全基盤です。以下のようなポイントを押さえて、取り組みたいところです。

  • 社内利用とシステムAPI利用を分けて設計: 社員のブラウザ利用はCloudflare Oneで守り、自社サービスのAPI利用はAI Gatewayで統合管理
  • シャドーAIの可視化とプロンプト保護: 利用実態を棚卸しした上で、DLPやAI Prompt Protectionによって個人情報や機密データの外部送信を自動防止
  • AI Gatewayによるコスト制御と可用性の確保: 複数AIの利用量と推定コストを横断監視し、キャッシュやSpend Limits、フォールバックによって予算超過や障害停止を抑止

生成AIの活用において、自社のどこに、見えにくくなっている危険やコストが隠れているのか。まずは社内のAI利用実態の可視化から始めましょう。

覚えておきたい用語

  • シャドーAI: 会社やIT部門の承認・管理を受けずに、従業員が業務でAIサービスを利用すること
  • Cloudflare One: 従業員のインターネットやSaaS、AI利用などを可視化、制御するCloudflareのセキュリティ基盤
  • AI Gateway: AIアプリとAIモデルの間に入り、API利用、ログ、コストなどを管理するCloudflareのサービス
  • DLP: 個人情報や機密情報などが外部へ送信されることを検知、制御する仕組み
  • CASB: 企業が利用するクラウドサービスの設定やデータ利用を可視化、管理する仕組み
  • AI Prompt Protection: 生成AIへ入力されるプロンプトを分析し、機密情報などを検出、制御する機能
  • トークン: 生成AIが文章を処理するときに、文字や単語を細かく分割した単位
  • Rate Limiting: 一定時間内に利用できるリクエスト数を制限する仕組み
  • Spend Limits: AI利用金額に上限を設定し、予算超過を制御するAI Gatewayの機能

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